米国長短金利差の逆転について~景気後退入りか~

米国の長短金利差が逆転、イールドカーブが逆イールドに
米国株投資家の皆さんの間では何度も目にしたかもしれませんが、米国の国債のうち、短期金利の指標とされる2年国債と、長期金利の指標とされる10年国債の金利が逆転しました。
正確にはすでに10年国債と3か月物の国債が逆転していましたが、代表的な2年国債と10年国債が逆転したため、ニュースでいろいろと取り上げられており、かつ株式市場も大きく動きました。
そもそも何が問題なのか、金融機関で働いている私が頭の整理のためにも記事にしようと思います。
※業界経験数年の金融マンですから参考程度に聞いてください。笑
イールドカーブ(利回り曲線)について
長短金利差が逆転した=イールドカーブが逆イールドになった
という意味ですが、あるべきイールドカーブ(利回り曲線)の形は右肩上がりです。
出典:日経新聞
X軸が国債の残存期間、Y軸が利回りを表していますが、通常国債の残存期間が長ければ長いほど利回りが高くなるため、イールドカーブは右肩上がり(順イールド)になるのが正常です。
なぜならお金には「現在価値」という概念があるからです。要は「1年後にもらえる100万円よりも今もらえる100万円の方が価値が高い」という考えです。
このような考えが生まれるのは、「そもそも1年後に本当に100万円もらえるかわからない」し、「今100万円もらえればすぐに消費に回せてメリットを享受したり、1年後にはリスクフリー(一般的には国債)の商品に投資することで一定の金利を受け取り、今の100万円は1年後には101万円とかに増えている」という考えがあるからです。
そのため2年国債よりも10年国債の方が利回りを高くし、投資家にとって魅力的な商品にする必要があるわけです。
いずれにせよ、2年国債よりも10年国債の方が利回りが高く、イールドカーブが右肩上がりであるというのが正しい姿です。
短期金利(2年国債)の変動要因
短期金利(2年国債)は、中央銀行の金融政策に影響を受けやすいです。つまり、FRBが利上げをすれば短期金利も上がり、FRBが利下げをすれば短期金利は下がるというのが一般論です。
長期金利の変動要因
長期金利(10年国債)は、金融政策の影響も多少はあるものの、基本的には景気が良いか悪いかで上下します。つまり、マーケットが今後の先行きが良いと思っていれば長期金利は上昇(国債価格は下落)し、今後の先行きが悪いと思っていれば長期金利が低下(国債価格は上昇)する、というのが一般的な考えです。
ちなみに長期金利には一応公式みたいなものがあります。それは、
長期金利=潜在成長率+期待インフレ率+リスクプレミアム(要はデフォルトリスクに対して加えられるプレミアム)
というものです。例えば直近の米国10年債は1.60%くらいですが、
これを公式に当てはめてみると、
約2.1%(2019年4-6月期実質GDP)+約1.8%(直近米国CPIより)+ほぼ0%(米国債は1度もデフォルトがない)=約3.9%以上
というのが理論上適正であるはずですが、今は1.60%程度に抑えられています(長期金利が上昇しない)。
逆イールドの原因
みなさんご存知の通り、リーマンショック後に世界の金利は金融緩和により0%近辺で推移(異常事態)、その後正常化のためアメリカでは今年7月のFRBで利下げが行われるまで、利上げ(金利上昇)局面が続いていました。
その間に、何度か逆イールドが噂されたこともありましたが、その原因は主に中央銀行の利上げによるものでした。
つまり、利上げにより短期金利が上昇していくにも関わらず、潜在成長率や期待インフレ率が上昇しないことで長短金利差が縮小し、いよいよ逆イールドになるぞ。ということが以前ニュースになっていました(たしか2017年の末とか?)。
そしてついに利下げをしたにもかかわらず逆イールドが発生してしまったというのは、おそらく米中貿易やヨーロッパ圏の景気不安などで潜在成長率が抑制され(マーケットがそう考えている)、株式と比較して安全資産である国債価格が上昇したことで、結果的に長期金利が低下、逆イールドになってしまった。というのが原因ではないかと思っています(ここはいろいろ意見があると思います)。
逆イールドの何が悪いか
通常金融機関は、短期で借りて長期で貸出し、その利ザヤを得るというビジネスです。
つまり0.5%で借りてきて2%で貸して、1.5%の利ザヤを得るという、そんな話です。
ここで逆イールドになると短期金利(調達金利)の方が長期金利(貸出金利)よりも高くなってしまい、金融機関は儲けることができなくなり、貸出のインセンティブが失われてしまいます。
そうなると経済の血液とも言われるカネが循環しなくなりますから、個人消費や企業の設備投資を悪化させ、景気後退に陥るというのが逆イールドのメカニズム、悪い点というわけです。
実際に逆イールドは景気後退の前に起きている事象(1989年、1999年、2006年)であるため、NY連銀ではこれをもとに景気後退確率を算出したりしているみたいです。
出典:東洋経済
今回はどうなる??
今回も景気後退につながるのか、まあ結論から言えば誰もわからないわけですが(笑)、景気サイクルを考えれば、近年ダウが最高値を更新し続けているように、そろそろ一度景気後退かな、と考えるのがマーケットのコンセンサスだと思います。
私はまだ投資を始めて2年程度、米国株については1年未満ですから、景気後退局面の経験がありません。
しかし大切なことは市場から退場しないことですから、個別株の決算が良い限りは持ち続ける計画です。
長くなりましたがここらへんで。