【文系脳が半導体銘柄をざっくり解説④半導体IP】NVIDIAによる買収が噂されるARM

半導体シリーズの第4弾です。
前回記事はこちら↓
現在はソフトバンクグループが株式を保有しているARMですが、NVIDIAが買収を検討しているというニュースが出ています。(現時点でNVIDIA側の正式なコメントはないですが。)
それに関連して、今回はARMを起点として、半導体IP分野についてお話できればと思います。
ARMはCPUの設計図をライセンスする半導体IPベンダー
ARMのCPU自体は1983年に、イギリスのAcorn Computersという会社で開発が始まりました。
その後1990年にAdvanced RISC Machinesという新会社が設立され、1998年の上場時に「ARM Limited」となり現在に至っています。
2016年に孫さんのソフトバンクグループに買収され、現在はソフトバンクグループの立て直しのために売却が噂されています。
ARMが半導体の製造プロセスの中でどの立ち位置にいるかというと、第一回で説明した、ファブレスにあたる設計屋さんなんですが、実はちょっと特殊で、ARMはサプライチェーンでいうとファブレスよりももう一つ川上にいる会社です。
どういうことかというと、ARMのビジネスは、「ARMが開発したCPUの設計図(ARMアーキテクチャと呼ぶ)を使う権利をファブレス企業(アップルやQualcomm)やIDM企業(Intelやルネサスなど)にライセンスし、ARMアーキテクチャを利用した製品が売れたら売上の数%がロイヤリティとしてARMに入る」というものです。
わかりづらいですかね??
要は、ARMは設計屋さんなんですが、ARMのCPUをTSMCに作ってもらうのではなく、ARMのCPU設計図を半導体企業に使ってもらって、その対価としてライセンス料や、販売ロイヤリティを受け取るというビジネスなわけです。
こう考えると単純なファブレス企業とは異なるビジネスだということがおわかり頂けるかと思います。
ちなみに、このように設計図(IP:知的財産権)をライセンスして収益を得るビジネスモデルの企業を半導体IPベンダーと言います。
他には米国SynopsysやCadance、台湾eMemoryなどが挙げられます。
2018年のランキングですが、プレーヤーがわかるのでご参考まで。
※Source: IPnest april/2019
IPベンダーはSoC(System on a Chip)に欠かせない
ARMが伸びた理由は何でしょうか?
そもそもPC用のCPUであれば、ご存知の通りIntelのCPUが採用されてきました。しかし、スマホ・タブレット用ではARMのCPUが高いシェアとなっています。
この「スマホ・タブレット用」というのがARMがシェアを伸ばした大きな理由の一つになります。
さて、半導体の世界では流れとして、「SoC化」というのがキーワードの一つとなっています。
SoCとは何かというと、System on a Chipの略で、一つのチップに様々な機能(CPU、GPU、メモリ、アナログ)を持たせた半導体のことを言います。
どういうことかというと、第一回で説明したように、通常は半導体はそれぞれ異なる機能を持っているため、基板上に違う種類の半導体がたくさん搭載されています。
(こんな感じで種類が違う色々な半導体が並んでいる)
PCのような大きなハードウェアなら特に問題はないのですが、スマートフォンやタブレットのように、小さなハードウェアに半導体を搭載する際には、できれば小さい部品が良いというのが当然の考えです。そこで一つのチップにまとめてしまおうという流れになっているわけです。
さらには、SoCによって半導体と半導体の距離が近くなるので、単純に電子の移動する距離が短くなり、処理速度が速くなるというメリットもあります。
そしてこのSoC化にあたり、ARMの設計したCPUが重要なのです。
ARMがライセンスするのは、ARMの設計したCPUのIPであって、ライセンスを受けた企業(AppleやQualcommなど)は、そのIPを使って、好きなようにCPU以外の他の機能も組み込んでSoCを設計していきます。
例えばAppleの最新SoCであるA13を見てみると、こうしてCPU以外にもAppleが搭載したいたくさんの機能を組み込んで、SoCを設計していることが分かります。
ARMの設計したCPUは、AppleやQualcommがCPU以外に入れたい機能(GPUとか)と互換するようにカスタマイズしやすく、昔からモバイル向けの半導体を設計してきたことから、低消費電力なのに相応の演算能力があるという特徴があります。
そのため、ARMのCPUはスマホ向けで90%近くのシェアを誇っているわけです。
ちなみにスマホ用SoCは有名なところでは、
- Apple Aシリーズ(iPohne)
- Qualcomm snapdragon(Androidスマホ用)
- Hisilicon Kirinシリーズ(Huawei用)
なんかがあります。
繰り返しになりますが、これらに代表されるスマホ用SoCの90%近くはARMのCPUを利用して作られています。
スマホやタブレット以外にも、白物家電やカーナビ(このようなときはマイコンという半導体に使われています。マイコンは小さなコンピュータみたいなものです。)にもARMのCPUが採用されており、現在では実に、年間200億個以上もARMのCPUを利用した半導体が出荷されています。
ヤバすぎですよね。私もあなたも知らず知らずのうちにArmのお世話になっているんですよ。笑
そしてArmのIPを使った半導体が売れれば売れるほど、チャリンチャリンArmにロイヤリティが入っていくわけです。みんな大好き配当金のようですよね??笑
ちなみに:NVIDIAによるARM買収に対する業界の声
ここはおまけという感じですが、今回ニュースになっている、NVIDIAによるArm買収について。
私の意見としては、Armはこれまで見てきたように素晴らしい会社ですし、買収できればそりゃ良いディールになるだろうという第一印象です。
ただし、業界の見方は割とネガティブのようです。
なぜかというと、Armはこれまで、「どの半導体企業にも中立にIPを提供できる」というのが一つのメリットでした。
どういうことかというと、どこの傘下でもないので、どの会社もこぞってArmのIPを採用していますが、仮にNVIDIAの傘下となった場合、NVIDIAと競合になっている会社は、NVIDIA傘下となっているArmからはIPのライセンスを受けないのではないか??
という見方をしている人が多いからです。
NVIDIAはご存知の通りGPUのトップ企業ですが、Arm買収によりCPUにも乗り出した場合、IntelもAMDも競合になりますし(AMDはすでにGPUの競合ですが)、GPUの市場がNVIDIAに取られている中で、AppleもQualcommも、半導体の世界がどんどんNVIDIAの独壇場になっていくことを許すでしょうか?
ましてや、AMDのようなバッチリの競合はNVIDIA傘下のArmからIPのライセンスをこれまで通り積極的に受けるのでしょうか?
というように、各競合企業がライバルのNVIDIAからコアIPのライセンスを受けるような状況は想像しづらく、Armの成長はこれまでと同じ曲線を描かないのではないか?という見方が多いようです。
NVIDIAから正式なリリースがないため判断が付きづらいですが、必ずしもNVIDIAにとって良いニュースではないのかもしれません。
半導体IPベンダーの今後
Armのような半導体IPベンダーは今後どうなっていくでしょう?
業界の流れとして、分業化が進んでいるのは何度か触れてきました。今後も同様に分業は続いていくと私は思いますし、業界の方から話を聞いても、よりよいIPがあれば、積極的に活用していきたいと考えるのが一般的のようです(「良いIPは宝物」とおっしゃる方も)。
半導体の開発って結構お金も時間もかかりますから、良いIPがあればそれを活用して、開発にかかる時間を減らしていこうというのは当然だと思います(難しい技術であれば、5年くらいのスパンで開発する必要もあるようです!!)。
今はIDM企業も多く残っていますが、それらの企業も徐々にIPを活用したり、製造の一部はTSMCに委託したり、分業の流れは間違いなく進んでいます。
こうして考えると、Armも他のIPベンダーも、まだまだ成長の余地はあると思います。
こうしたIPベンダーも、是非注目してはいかがでしょう。
それでは。