【文系脳が半導体銘柄をざっくり解説③アナログ半導体】データセンター用アナログ半導体のインファイ(IPHI)

間が空いてしまいましたが、半導体シリーズの続編です。
じっちゃまがインファイ【ティッカー:IPHI】を紹介していたので、取り上げてみようと思います。
インファイつながりで、アナログ半導体についてお話できればと思います。
Inphiはデータセンター等の通信用アナログチップの設計を行うファブレス企業
Inphiは2000年に創業した、通信用アナログチップを設計するファブレス半導体企業です。
第二回で説明した通り、半導体業界は設計から製造、テストまで行うIDM企業(インテルなど)や、設計のみ行うファブレス企業(クアルコム、エヌビディアなど)、製造だけ行うファウンドリ企業(TSMCなど)、テスト、パッケージングを行うOSAT企業(ASE、Amkorなど)があります。
Inphiはここでいうところの、設計だけ行うファブレス企業となります。
製造はTSMCや、イスラエルのTower Semiconductor(ティッカー:TSEM。アナログファウンドリではトップの企業)に委託をしています。
で、どんなチップの設計を行っているかというと、通信用のアナログチップです。特に、データセンター間を相互接続する光トランシーバに使われるチップを設計しています。
顧客を見ると売上の15%はマイクロソフト、11%がファーウェイ、次点でシスコなどが占めており、やはりデータセンター向けに強いことがよくわかります。
このチップは地域ごとに分散されているデータセンター間の通信のために使われています。
なぜこんなことをするかというと、世界のデータセンターがつながることで高効率になったり、バックアップを取ることが出来るからです(広域通信ネットワーク)。
さらには数10~数100キロくらい離れた、地域ごとのデータセンター間を接続し、更なるスケールアップを狙ったハイパーデータセンター間接続の構想(リージョナル・データセンター間の接続)も理由として挙げられます。
データセンター間の接続のために、実は世界中に光ファイバーが繋がれています。
※下の図は上がGoogle、下がMicrosoftの大陸間ファイバー通信網
これはグローバルなデータセンター間接続ですが、前述した地域ごとのデータ間接続でも同様に、光ファイバーでデータセンター間を接続しています。
この通信に使われるのが光トランシーバーで、その光トランシーバーに使われるチップをインファイが設計しているわけです(やっと出てきた!)。
インファイの設計するチップは消費電力が低いことが評価され、MicrosoftのAzureにも使われています。
消費電力はデータセンター運営で非常に重要です。データセンター内にはたくさんのサーバーがずらりと並んでいますが、これらの消費電力が高いと空調代も高くなり、データセンター全体で見ると非常にコストがかかります。
各社はいかに消費電力を下げるかということで、半導体のような小さな部材から、より良いものを探しているわけです。
インファイの半導体は顧客を見ても、高い評価を受けているのがわかりますね。
ファーウェイ比率が高いのが若干不安ではありますが、在宅勤務の増加や5Gで今後もデータセンターへの投資は続くでしょうから、注目すべき銘柄の一つではないかと思います。
参考:EEタイムズ
さて、半導体業界を知る上で「アナログ半導体」は重要なので、今回のテーマとしたいと思います。
アナログ半導体ってなんぞや
アナログ半導体ってなんやねん、そもそもアナログがあったらデジタルがあるんか?
と言いたくなるところですが、まさしくその通りで、半導体は雑に大きく分けるとするならば、デジタル半導体とアナログ半導体に分けられます。
デジタル半導体は例えば、CPUやGPUなどのロジック(論理系)半導体、メモリなどの半導体を指します。
これらの半導体はまさしくデジタル信号を扱って、機能を果たしています。つまり、0か1のデジタル信号でもって、演算を行ったり、データの記憶を行っているわけです。
一方でアナログ半導体とは何かというと、簡単に言えば、0か1で表せないようなアナログ情報(音とか光とか人間の知覚に近いもの)を、デジタル信号に変換したり、逆にアナログ情報をデジタル信号に変換する半導体です。
デジタルでは0、1の電気信号でしか表せませんが、人間の世界は見るのも聞くのも触るのも、すべてアナログですよね。人間は0、1では意味を理解できませんから、デジタル信号をアナログに変換する必要があるわけです。
我々がスマホで電話出来ているのなんかもアナログ半導体のおかげで、アナログ情報である声をデジタル信号(0、1)に変換して相手に送信して、相手先でその0、1の信号をまたアナログ情報(音声)に戻すことで、会話が出来ているのです。
あとはイメージセンサー(スマホのカメラに使われている画像センサー)なんかもアナログ半導体ですし、広く言えばパワー半導体のような、電圧をコントロールしたり、直流と交流の変換をしたりするようなものもアナログ半導体です。
アナログ半導体はとてもすそ野が広く(少量多品種が特徴)、縁の下の力持ちのような、実はとても重要な半導体です。
あとは特徴で言えば、アナログ半導体はメモリ半導体のように価格のボラティリティが高くなく、大きな成長はありませんが大きな下落もなく、とても安定的に成長しています。
これは、産業や車載用に多く使われるため、高い安全性が求められた結果、製品寿命が長いことが理由として挙げられます(一度採用されると5~10年単位で長く採用されることが多い。一度厳しいテストを乗り越えた半導体を切り替えるのには相応の期間やコストがかかる)。
また、アナログ半導体は最先端プロセスを必要とせず、どちらかというと微細化(線幅を細くする)よりも、ノウハウ的な職人芸の要素が高いです(最先端のイメージセンサーでも65nmとかのレベル)。
そのため1台100億円もするEUVなどの最新装置は必要なく、古い世代の装置を使うことが出来ます。つまりコストがあまりかからず、粗利も高いことが特徴です。
アナログ半導体1位のテキサスインスツルメンツ(ティッカー:TXN)の粗利率なんて、60%を超えています。製造業としてはおかしな水準です。
ついでですが、TXNの株価上昇も長いスパンでみると半端ないです。
NVDAやAMD、TSMなどに隠れてはいますが、昔から優良な銘柄です。
とまあこんな感じで、CPUとかGPUとか、IntelやNVIDIAが作っている目立つ半導体の裏では、こうした電子機器に不可欠かつ安定的な成長を続けている半導体もあるわけです。それがアナログ半導体です。
アナログ半導体のプレーヤー
アナログ半導体のプレーヤーを見てみましょう。
こんな感じで、先ほど取り上げたTexas Instrumentsか1位ですが、シェアは19%に過ぎないです。
メモリの半導体は寡占化が進んでいて、サムスン、SKハイニックス、マイクロンでDRAM(メモリの種類の一つですが、また今度取り上げます)市場を、サムスン、SKハイニックス、キオクシア(旧東芝メモリ)&WD連合、マイクロンでNAND(また今度取り上げます笑)市場を寡占している状態です。
DRAMなんてサムスンが46%もシェアを取っています。
しかしながら、アナログ半導体ではシェアが分かれているのがよくわかると思います。ここが、少量多品種のアナログ分野を示している点と言えるでしょう。
そして先ほど「アナログは安定的」という話をしました。
2020年は半導体が活況ですが、2019年は実は半導体業界は不調でした。これは米中貿易戦争が主な要因ですが、2017~2018年のメモリ盛況の反動でもありました。
2019年の半導体ランキングを見ると、面白いことが分かります。
メモリの半導体(サムスン、SKハイニックス、マイクロン)なんかが前年比成長率-29%~-38%とかめちゃめちゃやられているのに対して、アナログのTexas InstrumentsやSTMicroelectoronics、NXPなんかは前年比成長率が-数%で済んでいます。
これはアナログ半導体が安定的であることを示していて、いかにメモリ半導体のボラティリティが高いかということを如実に表していると思います。
アナログ半導体も注目してね
どうしてもエヌビディアやAMDに注目は集まりがちですが、アナログ半導体も電子機器に不可欠な部品であり、派手さはないけど安定感のある成長を続けています。
ただ最新の装置を購入して線幅を細くする努力をするのではなく、設計者の熟練のノウハウがより重要になるのがアナログ半導体なのです。
もしよかったら、皆さんもアナログ半導体に注目してみて下さい。きっといい銘柄が見つかると思います。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。